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これでもかという屋根を嫌うのが京都人。あっさりとした詫びた佇まいはそんな気質の賜物だ。 | |||||
ベンガラ塗りの格子戸。通り一線にそろった軒先。京都には、際立つことを嫌い、隣近所にあわせた町並みの美しさがある。この目立たない意匠は、千利休がおこした草庵茶室の理念にも通じるものだ。 | |||||
その瓦屋根を注意して眺めると、少し丸い膨らみが付いているのがわかる。 これが”むくり”だ。 「下から見ると細工の意味が納得できるんですよ。棟から軒先まで傾斜が真直ぐだと屋根が凹んで見えるんです」と、瓦職人、光本大助さん。 ”むくり”の頂点は軒から4分の位置。この形の瓦屋根が一番美しい。 瓦は美しさだけではなく、家の耐久性や安全性になくてはならないものだ。 そこに阪神淡路大震災が発生する。数多くの瓦が滑落し、土の重みで建物が大きく変形したのだ。「ショックでしたね。瓦は美しさだけではないと自信をもって葺いてきたので納得できませんでした」 |
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その後、瓦葺の工法は大きく見直された。 従来の土を持って瓦をのせる土葺きから、屋根に打った桟木に瓦を固定する引掛桟葺という手法に変更されたのだ。屋根の重量が大きく軽減されたうえに、1枚1枚の瓦が建物に固定されているため、台風が来てもずれることがない。 「京都大学の実験棟でね、大震災と同じ揺れを再現しても全然大丈夫なんですよ。 何百年かけて完成した瓦がさらに進化しましたね」 工法は進化する。しかし、黙々と棟を積む若い職人を見ていると、体で覚えていくのは昔と同じだ。これからも多くの職人が活躍の機会をまっているだろう。 |