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壁は聞いて読んで観て学べ。技は一生の修行から。 | |||||
京壁の撫で物では一番上級とされる仕上。糊を入れず材料を水だけで練る。「土の分子がもつ電気的な力で引っ付くので、糊に頼るより長持ちするんですよ」と、左官工の、小野光男さん。しかしながら上塗りの塗厚が薄いので、壁面にムラができやすく細心の注意を要する。 | |||||
昔から、左官職人の世界では、手を取って教わったり、教室で講義を聞くといった養成訓練ではなく、ただ先輩や親方が作業する傍らで見よう見真似で習得するのが普通であった。 材料は自然素材であってどこでも手に入るが、逆にいうと均質なものが手に入りにくく職人の感性にたよる世界なのだ。 粘土が高ければ鏝について割れやすく、逆に○(草冠に切る:スサ)が多ければ表面が平らに均しにくい。 「盗んで覚えろといわれましたね。誰に聞いてもコツとか急所というものは教えてくれず、秘伝であるから簡単に他人に教えられるかということだったと思います」 特に茶室の壁は難しい。 通常、京壁聚楽土を塗るが、これは、茶道が求める侘び寂びの陰翳に通じるものがあるからだ。 成分として含まれる鉄分が酸化し表面錆が発生するものの、塗ってすぐに侘びた味が出てくるものではなく、何度も炉に窯を掛けて初めて壁が良くなっていくものだという。 |
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「われわれ左官工は出来上がった茶室に立ち入りができないため、わが子のような壁がいまどうなっているのかいつも気になっているんですよ」 年月を重ねて仕上がっていく壁土。職人とは完成することがない修業なのだ。 |